ミュージカル・十二夜(10月16日帝国劇場)
色々と演出を変えながら繰返し上演されている作品であるが、
ミュージカル仕立の公演は少ないようである。
しかしこの作品を見て感じたことは、「ミュージカル・十二夜」と言うよりも、
むしろ「ショーアップ・十二夜」と言うような印象が強かった。
オケ・ボックスの手前にミニ銀橋が出来ていたのも、
ショーを意識しての舞台装置だったのかもしれない。
ストレートプレイをミュージカル化した場合、
音楽に時間を割く分だけストーリーは荒削りになってしまう。
この作品では更にショーに要する時間をも割かれてしまうので、
初めて観る人にとっては分かりにくい作品となってしまったのではないだろうか。
しかし「十二夜」と言う作品は上演回数は極めて多いものと思われるし、
ビデオ化もされ、テレビでも放映され、映画にもなっているので、
今回初めて観たという人は少ないのかもしれない。
私自身も生の舞台は初めてであるが、映像は見ているのである程度のことは知っている。
演出家もこうしたことを踏まえ、ストーリーよりもショー要素を重視したのかもしれない。
この作品ではオリジナル・キャラクターとして「ネコ」と言うのが登場している。
本来はオリヴィアの飼猫の様だが、道化の相棒として狂言回しの役を果たしており、
これはこれで成功していたと思う。
「十二夜」を上演する場合、小細工はしないで正面から堂々と演じていく作品とするか、
本作の様に色々と変化を持たせた作品とするか、2通りの方法があるように感じられる。
どちらを選ぶかは脚本家の自由であり、観客も好みの作品を選んで観に行けば良い。
主役であるシザーリオは大地真央さんだが、私としては愛華みれさんのシザーリオを見たかった。
勿論大地さんは芝居のみならず、歌・ダンスについても申し分ない出来栄えである。
主役にとって重要な存在感も十分なのだが、時には存在感と言うものも邪魔になることがあり得るようだ。
大地さんが出演した他の作品でもそうなのだが、どの役においても非常に大きな存在感がある。
それ故にその役と共に、舞台上に「大地真央」そのものが同時に存在するように思えてしまうのだ。
スカーレットを演じれば、スカーレットと共に大地真央が舞台上にいる。
アン王女を演じれば、やはり舞台上にはアン王女と共に大地真央がいる。
そしてこの作品でもシザーリオの隣りには、常に大地真央の存在が感じられるのだ。
本人にしか見えないはずのスカーレットUの姿が、観客席にいても何故か見えてしまうのである。
大地さん程の実力者なら、大地真央の存在を消し去り、その役だけを残すことは可能なはずである。
ただしこれは私の好みであり、大地さんの影が残っているからこそ観に行く人もいるだろう。
この作品では、脚本自体もかなり大地さんを意識して作られているように感じられた。
個性ある作品とするためには、それも一つの方法なのかもしれない。
愛華みれさんはオリヴィア役であるが、一番の見せ場は二幕のオープニング。
宝塚で言うダルマに近いような衣装で男性ダンサーを従え、華麗なショーで二幕の冒頭を飾った。
ストーリーとは全く無縁のショーであり、「ショーアップ・十二夜」と表現した由縁である。
オリヴィア役でどうしても気になるのは、シザーリオと間違えてセバスチャンを誘惑するところ。
セバスチャンの手を取って自分の胸へ。
宝塚版ならなんでもない場面だが、やはり一般の舞台では気になる愛華ファンが多いのでは?
宝塚時代の女役はスカーレット位かと思うのだが、同期のトップ4人の中では最も女役に向いていると思う。
最後はウエディング・ドレスで登場するが、娘役も顔負けの美しさだった。
ネコ役は本田美奈子さんだが、プログラムを見るまで誰だか分からなかった。
ネコと言う役そのものも最初は意味不明であり、狂言回しであることを理解するまで時間がかかった。
帝劇のプログラムは1500円と高いので最初は買わない予定だったが、
歌唱力もしっかりしているネコの正体が知りたくて購入してしまった。
ミュージカルも回を重ねて、舞台俳優としての力を確実に付けているようである。
マライアの鷲尾真知子さん。この人は実力派でありながら、実に面白い人である。
面白い人であるだけに、今回の脚本には不満がある。
もっと自由に演じさせた方が、マライアとしての面白さが出たはずである。
音楽は全てオリジナルのようだが、歌詞・曲共に特に印象に残った物は無かった。
男優陣も歌える人が多いだけに、構成を工夫すると共にもっと迫力のある歌が欲しかった。
作詞は斉藤由貴さんだが、彼女自身の持ち歌についてはいい味を出していると思う。
しかしミュージカルではまた別の世界となるので、十分に入り込めていない印象を受けた。
マルヴォーリオやアントーニオの歌には迫力があったが、単発に終わってしまう印象は否めず、
もっと芝居の流れに乗って歌う場面が挿入されるような工夫が欲しかった。
タイトルでも「ミュージカル」と謳っているのだから、ショーよりも歌に力を入れるべきであろう。
ストーリーは荒削りと書いたが、後半は特にその印象が強かった。
マルヴォーリオは檻に閉じ込められたまま出番が無くなってしまったし、
3馬鹿トリオ+αもいつの間にかいなくなってしまったし、3馬鹿の壊れっぷりにも物足りなさを感じた。
オーシーノ公爵も競馬場にいるようなおっさんみたいで、公爵の気高さと言うものが感じられなかった。
実力のある人だけに、もっと正面から役作りに入った方が良かったと思う。
ショーアップの極めつけは劇中でのマジック披露か。
檻の中に入ったネコがマルヴォーリオと入れ替わると言うもので、マジックとしては普通のものである。
途中でマジックを披露することが分かってしまうので、観客へのインパクトも弱いものとなってしまう。
総じて言えることは、この作品は初心者を対象としたものではなく、
「十二夜」は見飽きてしまったよ〜、と言う人に向いている作品であると言うことである。
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