月組では既にこの作品を中日劇場で上演しているが、
その時の公演は観ていない。
メンバーは今回とは異なっていると思われるが、
脚本自体は恐らく同じものを使っていると思われる。
「あかねさす紫の花」は95年の雪組大劇場公演しか観ていないが、
この公演と比較すると異なっている箇所が散見された。
一番大きな変更点は最後の場面であるが、
雪組公演では芝居の途中でいきなり幕が降りて来たと言う感じで、
さっぱり訳が分からないうちに幕間となってしまった。
以前ある歌手のコンサートで開演後30分くらいたった時に幕が降りて来て、
歌手本人も呆気に取られているままの状況で中断され、
爆弾が仕掛けられていると言う電話があったので警察が調査する、
と言うアナウンスで館外に追い出されてしまったことがある。
そんな経験をしていたので、この時も『何かあったな』と思ったのであるが、
周囲の人の状況から推察するとどうやら正常に終了したらしい。
何とも後味の悪い終わり方であった。
今回の月組公演では、
最後に額田女王の影台詞(正式な名前を知らないのだが、録音した台詞を流すやつ)で、
この時の出来事が後の壬申の乱への遠因となっている旨が伝えらつつ幕が降りる。
いささか説明調に過ぎたのが気にはなったが、
幕引きの場面としては明らかに今回の方が優っている。
但しその前の大海人皇子の乱心場面は冗長に過ぎた。
逆に残念だったのは第十場、額田の「あかねさす〜」の歌で、
雪組では最後まで独特の節回しで歌っていた。
今回は初めこそ同じ様に歌っていたが、
途中から歌を詠むだけになってしまった。
彩乃さんは十分に歌いこなせるだけの歌唱力を持っているので、
やはり最後まで歌わせるようにして欲しかった。
有馬の温泉から銀麻呂や小月の所に帰った天比古は、
雪組公演では彫りかけの仏像を壊してしまったのだが、
今回は壊そうとはするが壊せないままに押し留められている。
ストーリーとしては今回の方が好感が持てるのであるが、
仏像が弥勒菩薩のようになってしまったのはいただけない。
その他雪組では大海人や中大兄皇子の家来達によるコメディーな場面があったが、
この公演では削られていた。
全国ツアーは人数が少ないのに加えて設備も大劇場のようには行かないので、
その限られた人数でも上演出来るような脚本・演出をしているはずだから、
単純に比較して評価するのは適当ではないだろう。
むしろ少人数で公演する場合の利点、
即ち大劇場では役の来ない下級生にも役が回ってくるので、
そうした面から観劇するのも一興かもしれない。
配役に関しては、先ずは主役である同期の瀬奈さんと大空さんであるが、
対照的なそれぞれの個性が配役に良くあっていたと思う。
ただし瀬奈さんの場合にはもっと力強さが見られた方が良かった。
彩乃さんは演技自体は悪くは無いのだが、
今一つ役になり切れていない印象を受けた。
額田を演じようとする意識が強過ぎたような感が見受けられたのだが、
もっと力を抜いて自然に演じていても良かったと思う。
今回の公演はまだ始まったばかりだが、
一度中日劇場でやっている役でもあり、今後は良くなっていくのかもしれない。
中堅級の生徒がどんどん減っている中で、嘉月さんと瀧川さんは良く舞台を締めていた。
特に嘉月さんの鎌足は重厚な存在感を必要とする役なので、
この役が浮いてしまうと舞台が軽いものになってしまう。
ただしその分他の役が若手に回ってしまうので、
雪組公演に比べると物足りなさを感じてしまった。
しかしこれは全国ツアーでは避けられないことなので、
若手を鍛えるための公演としてみればそれもまた良い。
ちょっと元気が無いので気になったのは鏡女王の花瀬さんで、
何となく影の薄い存在になってしまった。
元々実力のある人なので鏡女王の存在感は十分に出せる人である。
中堅の娘役として頑張って欲しい存在なのだが、
余程体調が悪かったのだろうか。
逆に意外に良かったのは十市皇女の憧花ゆりのさんで、
子供の雰囲気がとても良く出ていた。
「宝塚おとめ」によれば娘役としては身長は高い方だが、
舞台上ではそのようには見えなかった。
雪組では同一だったプロローグの歌手と三山の歌手は、
今回は白華れみさんと音姫すなおさんの二人に割り当てられたが、
若手を育てるためには良い選択であったと思う。
二人とも歌唱力そのものにはまだ未熟な点がみられるが、
こうして役を与えていけば上達も早いはずである。
ショーは前回の大劇場公演と同じ演目で、
14場と15場のタイトルが変わっているが、
具体的に内容がどう変わったのかまでは確認できない。
全体的には同じ流れであるが、
芝居とは違ってショーの場合には人数が少ないのでどうしても迫力に欠けてしまうことが、
全国ツアーの大きな欠点であると言うことが出来よう。
見所としては彩乃さんのミニスカポリスが一番かと思われる。
尤もプログラムによれば『警備員の女』と言う味気無いものになっているが、
今回は手錠に加えて拳銃も腰に下げられていた。
制服は「ESP!」で檀ちゃんが着た物と同じだと思われるが、
彩乃さんも以前よりは細身になっていてミニスカートも良く似合っていた。