大和型戦艦に対する私の見解の概要は既に述べている通りであるが、
今回は対象を副砲に絞り込んで話を進めることとする。
副砲における最大の疑問点はと言えば、
先ずはその装備理由を挙げなければならない。
副砲の目的は、第一には小艦艇の襲撃に備えるためであり、
第二には射程内に入った敵主力艦への攻撃と言うことになる。
しかし本艦の建造目的を考えた場合、
果たしてそのような状況が起こりうるのであろうか。
当時の海軍の基本戦略は艦隊決戦であり、
決戦海面を西太平洋と想定して侵攻してくる敵艦隊を迎え撃つものである。
潜水艦や水雷戦隊、あるいは航空機による漸減作戦も、
全ては主力艦同士の決戦を有利に導くための支援策に過ぎない。
そして最後の艦隊決戦において勝利するために造られたのが、
大和型の戦艦なのである。
敵の水雷戦隊に対しては速力に優る巡洋艦で対応する方が適切であり、
当然艦隊決戦に先立って主力艦の前方に進出しているので、
迎撃に費やすことの出来る時間的な余裕は十分にある。
万一巡洋艦が討ち漏らしたらどうするかと言えば、
当然高角砲による敵艦への射撃を行うこととなる。
最初から副砲がなければ高角砲は片舷6基12門となっていたであろうから、
駆逐艦程度の襲撃には十分に対応可能であると言えよう。
次に主力艦同士の決戦になった場合であるが、
既に遠距離砲戦術が相当に発達しているので、
仮に副砲の有効射程内に入った場合であっても、
副砲による連続命中弾で大きな効果を挙げることは期待出来ない。
副砲弾が当たるような状況であれば、
既に主砲弾が命中しているはずであるからだ。
次に艦隊決戦を離れ、小部隊同士による遭遇戦の場合を考えてみよう。
日本海軍の場合、大和に限らず戦艦が単独で戦場に進出することはあり得ない。
最低でも数隻の駆逐艦が随伴するであろうから、
夜間あるいは霧中での咄嗟戦闘に突入する可能性は無視しうるであろう。
相手が魚雷艇のような極小の目標でない限り主砲を使えば良いので、
遭遇戦であっても戦闘に支障をきたすことはない。
駆逐艦程度の目標に対して主砲を使用するのは勿体無い、
等と言う意見は論外であるが、レイテ沖海戦におけるような失態を演じないためにも、
非装甲目標に対する砲戦術も研究しておく必要はあるが。
副砲があっても戦力が減少する訳ではないのだが、
問題は副砲の装備による弊害の方が大きいと言うことなのである。
砲自体は最上型巡洋艦の流用であったとしても、
大和への装備ではまた新たに製造しなければならない設備もあり、
重量・容積に加えて要員も増加することとなる。
主砲の重量超過に対しては船殻部材の減厚等により対処しているようであるが、
その結果として若干の防御力の低下が発生している。
副砲の重量を船殻に回せば防御力はより強靭なものとなり、
高角砲に回せば防空能力の向上を図ることが出来る。
そして更に大きな欠点として挙げられるのが、
副砲が防御上の弱点を残したまま装備されたことである。
右図の左側は、大体配置図を参考にして作成した、前部副砲付近の概念図である。
大和では中甲板以上は舷側に装甲がないので、
落角によっては副砲への給弾用開口部から敵弾が飛び込む可能性がある。
これを防ぐために開口部のコーミング(図のA)には装甲を施し、
副砲弾庫及び火薬庫への砲弾の侵入を防ぐよう工夫されている。
なお副砲そのものについては装甲を施すことは出来ないので、
戦闘により破壊されても止むを得ないとされているが、
これは戦艦の考え方としては適切なものである。
砲弾に対してはこの構造で十分かと思われるが、
欠点として指摘されるのは直上からの爆撃である。
副砲々塔の天蓋に大型爆弾に耐えるだけの装甲を施すことは出来ないので、
砲塔を貫いた爆弾が開口部から弾庫・火薬庫を直撃する可能性は十分にありうる。
勿論開口部に飛び込む可能性は僅かなものであるし、
実際には開口部からは揚弾機等が砲塔まで延びているので、
装甲代りに多少の障害とはなるかも知れない。
しかし爆弾が主防御区画内を直撃する可能性を残すと言うことは、
やはり戦艦としては防御上の欠陥であると言わざるを得ない。
巡洋艦「夕張」の記事を書いている時、
ふとその給弾方式を大和にも適用出来ないかと言う考えが浮かんだ。
図の右側に示すのがその概念図であり、弾薬は一旦中甲板に揚げられ、
それから砲塔直下の給弾室に運び込むのである。
砲塔砲の場合、直下の弾薬庫から直接給弾するのが一般的であるが、
その既成概念に拘っていたのでは新しい考えは浮かばない。
この方式ならば砲塔直下の開口部がなくなるので、
爆弾が砲塔を貫いても弾薬庫に到達することはない。
揚弾機を前方に移しても開口部(C)はやはり必要であるが、
上部に装甲(B)を張ることが出来るので、
直撃弾もそこで防ぐ事ができる。
図ではコーミングは低くしてあるが、
これらの寸法はBの装甲も含めて弾道を確認して決定すれば良い。
なお副砲火薬庫下部の高角砲の弾薬については、
この改正案と同様一旦中甲板にまで揚げ、
その後更に上部の甲板にまで揚げる方式を採用しているようである。
そしてやはり中甲板の揚弾機開口部が気になったのか、
上部に水平防禦鈑を追加装備している。
また、後部の4番副砲については同様な考え方で補強することが出来るし、
中央部両舷の副砲についても装備位置から中甲板まで2甲板分の空間があるので、
給弾室を設けることは可能かと思われる。
この方式の欠点を挙げるならば、必要とする艦内容積と装甲重量が若干増え、
副砲の給弾作業に必要な人員が増すことであろうか。
しかし戦艦本来の任務達成のためには、
防御力の向上をより重視すべきであろう。
実戦の経過を見れば、爆弾が副砲を貫いて弾薬庫に侵入することはなかった。
だから副砲の防御力強化は不必要である、とはならない。
実際に副砲弾薬庫に直撃弾を受けなかったのは単なる結果に過ぎず、
防御の必要性とは異質のものである。
少しずつでも欠陥を克服して行くことが、
より良い艦艇の建造へと繋がるのである。