∞∞∞LINEAR−EXPRESS∞∞∞


 9月26日、山梨県都留市にあるリニア実験線を使用して行われた、 リニアモーターカーの試乗会に参加してきたので紹介する。 なお、会場にいた係員はあくまでも案内係であり、技術者はいないようであった。 試乗後に質問したが答が得られなかったので、推測による報告もあることを了解して頂きたい。

 リニアモーターカーの原理についてはご存知の方も多いと思うが、先ずは簡単に紹介しておく。
 右図は推進の原理を示すものであるが、車体に装備された電磁石の磁力と、 軌条に設置された推進コイルに発生する磁力による吸引力と反発力を利用している。 理論的には簡単なものであるが、実用化するためには正確に磁界の制御が出来なければならない。 車体の磁極は固定されているので、推進コイルの磁極を変化させて推進力を得ることになる。 回転式モーターのようにブラシで磁極を変えることは出来ないので、 精密な位置センサーと高速コンピューターの開発が不可欠だったのではないかと推測する。 勿論強力な磁力を発生する超伝導技術の開発も絶対に必要なものである。

 浮上の原理は右図の通りで、下から車体を押し上げるのではなく、 両側からの磁力で車体を支えていると言う感じである。 説明書によれば車両が高速で通過した時、軌条の浮上コイルに電流が流れると書いてある。 文面によれば浮上コイルには電力は供給せず、車体の磁石による誘導電流を利用していることになる。 その通りであれば効率的な方法ではあるが、先頭車両の浮力をどう確保するのかと言う疑問が残る。 現実には浮上して走っているので、何らかの方法で解決しているはずではあるのだが。 なお、低速走行時には車輪で走っているが、低速では発生する誘導電流が弱いので、 ある速度以上で無いと浮上に必要な電力が得られないのかもしれない。
 一見効率が悪いように見受けられる両側から支える方式であるが、 車体に装備された電磁石を推進用と共用することが出来るので、 システム全体としては簡素化できるのであろう。 後で述べるが浮上コイルは車体を軌条中央に保つ働きも持っており、 8の字形をした浮上コイルに発生する磁力は、図に示すように上下で逆となる。

 試乗会で用いられた車両は4両編成で、中央の2両が試乗の対象となっている。 前後部の先頭車両は2種類あり、それぞれの形状は右の写真の通りである。
 実験線の全長は18.4km、その内の16kmはトンネルであり、 走行中の車両を見ることの出来る地上部分は、実験センター付近の僅かな区間に過ぎない。 実験センターは実験線のほぼ中央にあり、見学センター等を併設して見学の便を図っている。
 実験センターの待機線を出た車両は車輪走行で実験線に移動し、東へ向かって走り出す。 車輪走行から浮上走行への移行は音で分かるが、航空機の離陸の瞬間とは全く異なる感じである。 実験線の東端には車両基地があり、こちらも地上部分となっている。 車両基地から西に向かって発車すると、80秒ほどで試乗会の最高速度500km/hに達する。 最高速度の持続時間は僅かに25秒であるが、実験センター付近をこの速度で通過するので、 外部での見学者はその速度を実感することが出来る。 車両に乗っている時にはそれ程速いとは感じなかったが、見学センターで眼下を走り抜ける車両を見ると、 1.2km程の距離を8秒で通り抜け、確かに「速い!」と言うのが正直な感想である。 西端に達した車両は再び逆方向に走り出し、実験センターに戻って試乗会は終了である。 1往復では物足りないが、もう次の試乗者が待機しているので降車するのもやむを得ない。

 車輪走行から浮上走行へ移り、加速して行く時の乗り心地はスムーズで満足できる。 しかし最高速度では騒音も大きく、揺れ自体は小さいのだが、揺れ方が人工的で不快な印象を受けた。 車両を軌条の中央に保つ仕組みを右図に示すが、浮上コイルによる吸引力と反発力によって、 中心線を外れた車両は強制的に軌条中央に戻されることになる。 一般的に言って、揺れによる加速度は曲線を描くものであるが、 このように人工的に発生する揺れの加速度は矩形を描いているものと思われる。 同じような揺れ方は全没型の水中翼船で経験したことがあるが、 この場合にもコンピュータ制御で船の位置を修正し、カクンカクンと言うような揺れが発生する。 高速で移動するエレベーターの場合、徐々に加速して乗り心地の向上を図った物もあるが、 揺れの制御もそれが可能になれば乗り心地は格段に向上する。 騒音の問題も回転部分は無い訳だから、トンネルの影響でうるさかったのかもしれない。

 実験線の長さは最終的には43km弱になるようだが、やはり大部分はトンネルである。 実用化された場合の路線は中央線に沿って建設されるようであるが、 この場合にも現在の新幹線よりトンネル部分が多くなることが予想される。 実用化された場合には軌条の保守・点検が大きな課題になるのではないかと思われるが、 却ってトンネルの方が保守・点検はやり易くなるかもしれない。

 新しい技術を実用化する場合、最大の障害となるのは技術上の問題ではなく、 政治上の問題であるケースはしばしば見られる。 リニアモーターカーの場合にもその可能性はあるが、移送の主対象が人間自体であると考えられるので、 運送業界等との競合は避けられ、案外スムーズに進むかもしれないという希望が無くも無い。 日本にはかつて緻密な鉄道網が敷かれていたが、各種公害や人身事故を無視した自動車業界に押され、 現在では無残なまでに衰退してしまった。 地球温暖化問題等も踏まえて、欧州では鉄道を再認識する機運が高まっている。 しかし日本では温暖化対策や公害対策は叫ばれてはいるが、効果的な施策は皆無であると言っても良い。 省エネルギー・低公害に優れたリニアであっても、政治屋のさじ加減でどうなるか分からない。 取りあえず技術的には、実用化に大きな障害は無いものと考えるのだが・・・

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