『きよめる』


キース・エヴァンズ、引き続き、ダウン中――。


「ですから、病み上がりに無茶をしないでくださいと、あれほどお願いしたでしょう」
ウォンはため息をついた。
キースの答えは、ほどんとうめき声だった。
「すまない……」

先日、集中治療が必要なほどの大やけどを負ったにもかかわらず、キースは意識を回復した翌日から、滞っていた仕事に精を出していた。
ウォンは、やれやれと肩をすくめて、
「感染症にかかりやすくなっていますから、しばらく外出してはいけませんよ」
「わかっている。外へ出なければいいのだろう?」
「それから、仕事の合い間に、じゅうぶんな休息を」
「何かに没頭していた方が、精神的に休まるが」
「ペンディングがお嫌な仕事があれば、私に投げてください。処理します」
「だが、君の仕事を、これ以上増やすのは」
「貴方に必要なことは私にも必要なことです。優先順位をきめていただければ」
「わかった。頼ることにしよう」

といいながらも、なにかに熱中しているキースは、身体が発するSOSに気づくのが遅い。
案の定、暑い最中に、熱を出した。
「若いからといって、無茶をすると、死にますよ」
「すまない」
「かえって仕事も遅れてしまいますし」
「わかってる。おとなしくしているよ」
そういうわけで、キースは二日ほど、寝込んでいた。
「具合はいかがです?」
「ん……たぶん、明日には起きられる」
「ああ、こんなに汗をかいて。着替えますか」
「うん」
上半身をおこして、ふと眩暈を感じ、キースは額を押さえた。
「寝過ぎた、か」
「ほんとうに眠れていたら、そんな顔色になりませんよ。寝ていてください」
「シャワーを浴びたいんだ」
「まだ無理です」
「顔を洗うぐらいならいいだろう」
「汗なら私が拭きますよ」
「耳をきれいにしたいんだ」
「ほう、お国ではそういう習慣がありますか」
「習慣は知らないが、耳のあたりって、気持ち悪くならないか」
「わかりました。貴方のお好きなところを、お拭きしましょう」

寝室へ戻ってきたウォンは、両手に電気ポットと洗面器を四つもっていた。バスタオルとタオルを数枚、引き出しから取り出す。
「仰々しいな」
「正式にやるのなら、石鹸なり洗浄液なり、もってきます。精油だけでももってきましょうか、さっぱりしますよ」
「いい。君のいう略式で」
「では。まず、耳でしたね」
ウォンは湯で濡らしたタオルを絞り、すこしさますと、キースの顔にふわりとかける。
「あ」
「これぐらいの温度で、いいですか」
ウォンの指がキースの耳に触れる。そっと中をこする。
「ああ……いい……」
タオルの下で甘い声がもれる。
「熱で敏感になっていますね。大丈夫、優しくしますから」
顔をきれいにすると、新しいタオルが絞られ、畳まれた。
「服は自分で脱げますか」
「脱げると思う」
「まあ、そちらも、お手伝いしましょう」

熱いタオルのせいで、ウォンの手はすっかり赤らんでいる。
キースは恥ずかしいポーズをとらされていた。最初、下半身はバスタオルで覆われたが、そこを拭く段になるとはぎ取られた。
「すこし、寒い」
「ああ、熱があがってきましたか、いけませんね」
ウォンはキースにローブを着せかけたが、濡れないように折り返して、下半身を拭き続ける。キースは息をつめる。
三つめの洗面器でタオルを絞り、まだ空だった四つめに湯をさしはじめる。
「さて、一番大事なところは、ご自分で拭きますか」
「臀部まで拭かれているのにか」
「どうしても、私の手で?」
「君の口唇でも、いいぞ」
「ふふ。それは元気になってからですよ」
ウォンは手を添えると、てっぺんからふきはじめた。キースは思わず身じろぎする。
「動かないで」
「その手つきじゃ、きれいにならない」
「そんなことはありませんよ。丁寧にやります」
「ああっ」
てっぺんも、途中も、一番下のふくらみも、まわりも、順に丁寧にぬぐわれる。
おかげでキースのものは、ウォンが手を離しても、倒れるどころか、むしろ反り返るほどになった。
「生殺し……だ……」
「それは、私の台詞ですよ、キース」
ウォンの声も濡れている。
「ですから、ご自分でやりますか、と」
「君の前で、自分の、なんて……かえって……」
「はずかしい? でも、抜くとかえって消耗してしまいますからね。我慢してください」
キースはイヤイヤをした。
「そうだ、君は……こういう時、絶対、いかせてくれないんだ……」
「そうですよ、私は意地悪ですから。貴方だけ気持ちよくなるなんて、ゆるしませんよ」
ウォンは冗談めかしてこたえたが、キースは首を振った。
「いいよ、もう」
キースは自分で脚の間を覆い、掌を動かし始めた。
「自分でする」
「だめですよ」
ウォンがキースの動きを制止しようとする。
「触るな」
「だめですったら」
「こらえる方が、つらいんだ」
「キース!」
ウォンはキースの掌をはがした。
キースの股間に顔を埋め、熱く脈打つものを口に含む。
「あ!」
キースはたわいなく身体を痙攣させた。
何度か喉をならし、ウォンは顔をあげた。
右手で口唇をぬぐう。
「濃い……ですね」
「君が、あんなに、するからだ」
ぐったりと力の抜けた身体を、ウォンは何事もなかったように拭き直し始めた。
「明日、起きられなくても、知りませんよ、私は」
「大丈夫だ。これで今日は、よく、眠れる」
その声がすでに眠そうだ。
ウォンはキースのローブの乱れをなおし、タオルをまとめて、立ち上がった。
「おやすみなさい、キース」
「君は、どこへ、ゆくんだ」
「片付けたら、戻ってきますよ」
「そうか」
キースは重い目蓋をうっすら開きながら、
「元気になったら、君も、気持ちよく、するから」
「それはどうも」

つかったものを片付けると、ウォンは書斎のソファに横になった。
いま、キースの隣でなど、眠れない。
もう一度、肌に触れたら、めちゃめちゃにしてしまう。
「清潔であればあるほど、魔性に近いかもしれませんね……貴方という人は……」
身体のほてりを静かになだめながら、目を閉じた。

(2009.9脱稿)

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Written by Narihara Akira
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