『のぞみ』


その夜、半兵衛の寝所を訪うた秀吉は、寝具をのべて寝支度を整え、そして振り返った。
「半兵衛。小田原へ入った後、おまえはどこを居城にする」
「えっ?」
秀吉は、不思議そうにききかえす半兵衛の脇に膝をつき、
「ひのもとを統べても、外地へ打って出る軍を整えるには、しばらく時間がかかるであろう。その間、おまえはどうするか。我とともに、小田原に逗留するか」
「僕は、大坂城でかまわないけど。本隊が東国を統べる間も、西へのにらみをきかせておかなければならないしね」
「そうか。では、今よりあたたかく、静かで、風通しのよい部屋を寝所にせよ」
「今の部屋で大丈夫だよ。ここは南向きだし」
「さもなくば、ふたたび京へ静養にゆくか?」
「秀吉?」
秀吉は目を伏せ、声を低めた。
「今のおまえを、外地へは連れて行けぬ。こんなに痩せた身体のままでは」
反対に、半兵衛の声は華やいだ。
「連れていって、くれるの?」
「できるものなら。だが、その前に、おまえはよく休まねばならぬ」
「休んでるよ、ちゃんと?」
「軍師の仕事として必要なことであろうと、いくさばを行き来している暮らしは、休んでいるとはいわぬぞ。居城を動かず、滋養のあるものを食べ、好きなものを読み、よく眠るのだ。調略はしばらく下のものにまかせて、おまえは頭だけ働かせておればよい。そのためにあれだけの数の兵士を、二人の手で営々と育ててきたのではないか」
「そうだけど……」
「半兵衛」
秀吉は、半兵衛をその腕に抱きしめた。
「わかっておる。おまえの身体は、おまえのものだ。おまえの好きに生きてかまわぬ。だが我は、おまえが欲しくてたまらぬのだ」
秀吉は、自分の腰を半兵衛にすりつける。
秀吉のそこは、すでに熱く、硬く、大きい。
それを己に重ねられて、半兵衛は思わず喘いだ。
「う、ぁん」
秀吉は熱く濡れた自分を、半兵衛とこすりあわせて達くことが多かった。
半兵衛のものも、秀吉の熱がうつったように、急激に硬さを増してゆく。
「ひでよ、し……」
半兵衛は秀吉に犯されても構わないのだが、秀吉はいたわるように入り口をなぞるだけで、深く入ってくることはない。
秀吉が喜びを得られるなら、すこしぐらい乱暴にされてもいい、と半兵衛は思う。
秀吉の腕の中で、愛されながら息絶えることができるなら、悔いはない。
だが。
「あの、秀吉は、こうするの、いいの……?」
「うむ」
「秀吉が、いちばん気持ちいいやり方で、して欲しい、んだ」
「む、半兵衛は、あまりよくないのか」
秀吉は腰を浮かせ、半兵衛の裾を乱すと、太い指でなぞりだした。
「掌でしぼられるほうが好きか? それとも、口でした方がよいのか」
「ち、違」
秀吉になら、どうされても気持ちがいいので、一緒にいける方がいい。
むしろ、秀吉の掌や口で奉仕されるのは、気が遠くなるほど恥ずかしく、しかも自分だけよくなってしまうようで、申し訳なくてたまらない。
「秀吉の、気持ちいい、から……焦らさないで、そのまま、こすって、て……」
「いやではないのだな?」
「厭なわけ、ないじゃないか。僕はぜんぶ、秀吉のものなんだから。ぜんぶ君のものにして、いいんだからね?」
「だが、もしおまえが少しでもつらいなら、煽らずにおくぞ」
秀吉の身体がさらに離れそうになったので、半兵衛はイヤイヤと首を振り、自分の身体を秀吉に押しつけた。声をうわずらせながら、
「いやだ、やめちゃ……やめない、で……」
秀吉は嬉しげに腰をすいつかせ、半兵衛の脚を挟むようにして愛撫を続ける。
「半兵衛。もっと甘い声をきかせよ」
ほんとうに声を出させたい秀吉は、半兵衛の胸もさすり出す。何カ所も同時に責められて、されるままに半兵衛は一気に感じてしまい、喘ぎをこらえきれなかった。
「ああ、秀吉、僕、もう」
「我慢せずともよい。我も直だ。達ってよいぞ」
「秀吉……秀吉……ひでよ、し……!」
何度も相手の名を呼びながら半兵衛は自分の喜びを解放し、秀吉も達ったことを感じると、ホウと力をぬいて、満足げに目を閉じた。
秀吉は簡単に後始末をし、そして半兵衛を抱きなおしてから、自分も目を閉じた。
だが、眠ったわけではない。
《半兵衛に、見抜かれておる》
「秀吉は、こうするの、いいの……?」
そう尋ねられた時、秀吉は内心、ドキリとしていた。
正直なところ、秀吉だとて、もっといろいろとしたい。
だが、半兵衛がいやがらず、一番はやく達けて、自分も達くことで半兵衛を満足させるとなると、ああいうやり方しか考えられない。
夜もおまえの笑顔がみたい。
おまえをよく眠らせてやりたい。
おまえをひどく消耗させずに喜びを与え、その身を満足させてやりたい。
それが我の望みなのだ、半兵衛。
なんど休めと命じても、おまえはじっとしておらぬ。
ならばせめて、こうして寝かしつけるしか、ないではないか。
あと、我はおまえに、何をしてやれるのだ?
「秀吉」
かすれた声に呼ばれて、秀吉はハッとした。
半兵衛は半ば眠っている状態のようだったが、それでも声は続いた。
「朝まで、いて……」
秀吉は半兵衛の髪に、そっと掌をいれた。
「うむ。そのように、素直にねだるがよい」
半兵衛。
おまえに、やめないで、とねだられたのがどんなに嬉しいか、わかっておるか?
「……うん」
力いっぱい抱きしめたいのをこらえて、秀吉は半兵衛の柔らかな髪を撫でる。
ああ。
おまえの望むとおり、どこまでも、連れてゆけたなら――。

(2011.2脱稿)

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Written by Narihara Akira
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