■Deck Tech:『青緑エンチャントレス』鈴木翔一

By Junya Takahashi

 いよいよ、『Eternal Festival Tokyo 2012』が開始された。

 250人を大きく上回り参加者たちの熱気に包まれた会場では、《石鍛冶の神秘家/Stoneforge Mystic》、《タルモゴイフ/Tarmogoyf》、《渦まく知識/Brainstorm》、《Force of Will》を筆頭に強力なカードたちが卓上で激しい覇権争いを繰り広げている。やはり各所で目にとまるのは所謂トップメタの一群である「URG Delver」「Stone Blade」「Show and Tell」だろうか。

 テンポ。グッドスタッフ。Trix。

 MTGを代表する各アーキタイプの粋を集めたデッキの数々には、古今東西の強力なカードにあふれたレガシーならではの魅力があり、その強さも相まって人気があるのも頷ける。
 だが、膨大なカードプールがもたらすものはグッドスタッフやコンボだけではない。かつてスタンダードやエクステンデッドなどのフォーマットで活躍した、どこか懐かしいデッキの焼き直しも見られるのだ。今回紹介する「青緑エンチャントレス」もその懐かしい雰囲気を持つ一つであり、レガシーというフォーマットならではの面白さを感じた。

会場は満員御礼! 

 かつてエクステンデッド環境で猛威を振るったアーキタイプである「青緑エンチャントレス」は、日本人的には『Eternal Wind』と銘打たれた――東 太陽がグランプリ王者に輝いた一つが記憶に鮮明かもしれない。

『Eternal Wind』 / 東 太陽
【グランプリ広島2003・優勝】
Main Deck Side Board
13《森/Forest(POR)》
8《島/Island(ISD)》
2《セラの聖域/Serra's Sanctum(USG)》
3《アルゴスの女魔術師/Argothian Enchantress(USG)》
3《フェアリーの大群/Cloud of Faeries》
4《女魔術師の存在/Enchantress's Presence》
4《踏査/Exploration》
4《肥沃な大地/Fertile Ground(USG)》
4《大あわての捜索/Frantic Search(ULG)》
4《退去の印章/Seal of Removal(NEM)》
4《繁茂/Wild Growth(6ED)》
3《生ける願い/Living Wish(JUD)》
3《気流の言葉/Words of Wind》
2《交易路/Trade Routes(8ED)》
4《軽快なリフレイン/Lilting Refrain(USG)》
2《浄化の印章/Seal of Cleansing》
2《プロパガンダ/Propaganda(TMP)》
1《ラクァタス大使/Ambassador Laquatus》
1《アルゴスの女魔術師/Argothian Enchantress(USG)》
1《フェアリーの大群/Cloud of Faeries》
1《金粉のドレイク/Gilded Drake(USG)》
1《マスティコア/Masticore》
1《現実主義の修道士/Monk Realist》
1《セラの聖域/Serra's Sanctum(USG)》

 2種類のエンチャントレス(《アルゴスの女魔術師/Argothian Enchantress》、《女魔術師の存在/Enchantress's Presence》)をダイナモに、マナ加速する土地エンチャントとフリースペルのコンボで大量のマナとカードをを獲得する。そして《気流の言葉/Words of Wind》でドローを置換して自分の《フェアリーの大群/Cloud of Faeries》と軽量エンチャントを戻すことで擬似的な循環を作り、最終的には対戦相手のパーマネントをすべてバウンスするロックデッキだ。そのメインとなる循環システムがそのままデッキ名になっている。

 フリースペルとマナ加速とドローエンジンのみでデッキが構成されている。接着剤となっている《生ける願い/Living Wish》が、フリースペルである《フェアリーの大群》を、マナ加速となる《セラの聖域/Serra's Sanctum》、ドローエンジンである《アルゴスの女魔術師》、更にはフィニッシャーでもある《ラクァタス大使/Ambassador Laquatus》をサーチできる優れものだったことが印象深い。

 それから数年が経ち、エンチャントレスはレガシーの世界でも成績を残すようになったが、その多くは《独房監禁/Solitary Confinement》を軸にした緑白のものだった。勝利手段も《気流の言葉》から《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》や《空位の玉座の印章/Sigil of the Empty Throne》へと移り変わり、よりデッキのコンセプトやメタゲーム内の立ち位置を強く意識した作りにシフトした結果だといえる。
 かつては青緑が主流だったものがステージを変えたことで緑白に傾き、その変化が定着しつつある頃、2012年の夏にAndrew"Gainsay"Cuneoが提案した新型がエンチャントレスのあり方を再び問うこととなった。
『Gainsay Enchantress』 / Gainsay
【参考デッキ】
Main Deck Side Board
7《森/Forest(POR)》
2《島/Island(ISD)》
2《Tropical Island》
4《霧深い雨林/Misty Rainforest》
1《Savannah(2ED)》
3《吹きさらしの荒野/Windswept Heath》

4《アルゴスの女魔術師/Argothian Enchantress(USG)》
4《フェアリーの大群/Cloud of Faeries》
2《永遠の証人/Eternal Witness》
4《緑の太陽の頂点/Green Sun's Zenith(MBS)》

1《精神壊しの罠/Mindbreak Trap》
4《女魔術師の存在/Enchantress's Presence》
2《花の絨毯/Carpet of Flowers(USG)》
4《エレファント・グラス/Elephant Grass》
4《退去の印章/Seal of Removal(NEM)》
1《原基の印章/Seal of Primordium(PLC)》
2《気流の言葉/Words of Wind》
4《楽園の拡散/Utopia Sprawl》
4《繁茂/Wild Growth(6ED)》
1《金属モックス/Chrome Mox(MRD)》
2《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》
2《精神壊しの罠/Mindbreak Trap》
2《寒け/Chill》
1《トーモッドの墓所/Tormod's Crypt》
1《調和スリヴァー/Harmonic Sliver》
1《花の絨毯/Carpet of Flowers(USG)》
1《たい肥/Compost(UDS)》
1《エネルギー・フィールド/Energy Field(USG)》
1《原基の印章/Seal of Primordium(PLC)》
1《クローサの掌握/Krosan Grip(TSP)》
1《ガドック・ティーグ/Gaddock Teeg》
1《木化/Lignify(LRW)》

 古き『Eternal Wind』の系譜を継いだ新世代のエンチャントレスだ。《生ける願い》は万能ながらもやや重ったるいラグが嫌われ《緑の太陽の頂点/Green Sun's Zenith》へと席を譲り、かつては苦手だった軽量パーマネントの連打には《エレファント・グラス/Elephant Grass》がばっちりとハマる構成になっている。《踏査/Exploration》や《セラの聖域》がなくなったことで爆発的なマナの生成は見られなくなっているが、同時に極端なマナを要求するフィニッシャー枠も消えたことでデッキ全体が無駄なくシェイプアップことがわかる。

 《金属モックス/Chrome Mox》以外に散りばめられた数枚にはやや疑問が残るものの、どれもエンチャントレスが苦手とする特定のマッチアップにおいて輝く一枚であるため、メインボードから施した過度な対策という意味でよくも悪くもバランスがとれていると考えられる。

 防御手段を《退去の印章/Seal of Removal》と《エレファント・グラス》という特定の2枚に頼っていることでやや防御能力には不安は残るが、スピードと角度ともに申し分ない構築となっている。

 今大会に目を向けたところ、これらの「青緑エンチャントレス」の流れをくむデッキを見つけた。これが鈴木 翔一(東京)謹製のものだ。
『Gainsay Enchantress』 / 鈴木 翔一
【Eternal Festival Tokyo 2012】
Main Deck Side Board
8《森/Forest(POR)》
2《島/Island(ISD)》
1《平地/Plains(MMQ)》
4《霧深い雨林/Misty Rainforest》
3《吹きさらしの荒野/Windswept Heath》
2《セラの聖域/Serra's Sanctum(USG)》

1《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn(ROE)》

4《アルゴスの女魔術師/Argothian Enchantress(USG)》
4《女魔術師の存在/Enchantress's Presence》

4《繁茂/Wild Growth(6ED)》
4《楽園の拡散/Utopia Sprawl》
4《忘却の輪/Oblivion Ring(LRW)》
3《フェアリーの大群/Cloud of Faeries(ULG)》
2《独房監禁/Solitary Confinement》
2《退去の印章/Seal of Removal(NEM)》
2《基本に帰れ/Back to Basics(USG)》
2《ミリーの悪知恵/Mirri's Guile(TMP)》
2《真の木立ち/Sterling Grove》
1《緑の太陽の頂点/Green Sun's Zenith(MBS)》
1《悟りの教示者/Enlightened Tutor》
1《空位の玉座の印章/Sigil of the Empty Throne(CON)》
1《補充/Replenish》
1《安らかなる眠り/Rest in Peace(RTR)》
1《気流の言葉/Words of Wind》
4《神聖の力線/Leyline of Sanctity(M11)》
3《真髄の針/Pithing Needle》
2《退去の印章/Seal of Removal(NEM)》
2《孤独の都/City of Solitude(VIS)》
1《戦争の言葉/Words of War》
1《真の木立ち/Sterling Grove》
1《謙虚/Humility(TMP)》

 基本的な勝利手段やエンジンは「青緑エンチャントレス」のそれである。ただ、若干異なる点は白のカードを多く採用しているところだ。特に《忘却の輪/Oblivion Ring》を使用している点には注目すべきだろう。

 普通にプレイしても万能で幅広い一枚だが、最近ではまたひとつの役割も担っていることで知られている。それが《実物提示教育/Show and Tell》への対抗策だ。《全知/Omniscience》や《グリセルブランド/Griselbrand》、《エムラクール》といった難敵を苦もなく対処することができる。Gainsayが組み上げた時点では《全知》はカードプールになく《実物提示教育》から繰り出される脅威は2種類のクリーチャーだった。

 そのため《退去の印章》で十分に事足りたが、今現在では《全知》の存在からより広い対策が求められるようになったと鈴木は言う。
 また、今大会では多くの参加者が集っているため、局所的な対抗策よりも、色を増やすことで広く浅くといった対策のほうが効果的に働く可能性もある。

 サイドボードはまさに色を増やすことでの恩恵を受けており、《神聖の力線/Leyline of Sanctity》などは数は少なくとも確実に存在する「ANT」等のコンボデッキへの強力なアンチカードだ。

 色を増やしたことやサイドボードの構成にはやや試行錯誤の途中といった印象を受けるが、ゲーム中のデッキの動きは軽快で、是非とも一度は手にとって回してみたいデッキに見えた。古くからのプレイヤーは懐かしさを、最近のプレイヤーは軽快なフットワークを楽しんでみてはいかがだろうか。